経営の壁を打破する鍵は、人間力の向上
(東成エレクトロビーム株式会社)

東成エレクトロビーム株式会社 代表取締役社長 上野 邦香 様(左) 常務取締役 高島 康文 様(右)

難易度の高いビーム溶接で、日本のものづくりを支える

東成エレクトロビーム株式会社(以下、東成エレクトロビーム)は、西多摩郡瑞穂町に本社を構える企業です。電子ビーム溶接やレーザー加工、レーザークリーニングなどで自動車、航空宇宙、半導体、医療など幅広い業界の仕事を担ってきました。航空宇宙では小惑星探査機「はやぶさ2」で用いられる衝突装置の溶接を担いました。

上野社長「当社の事業は、高エネルギービームでお客様の研究開発のお手伝いをしており、この分野で世界一の経験数を誇ります。最終工程に近い部分を担っているため、失敗するとそれまでの工程を無駄にしてしまう、非常に責任重大な仕事です。一般的な溶接は熱歪みが生じやすい一方で、電子ビームは一般的な溶接の約5,000倍のエネルギー密度があり、非常に細く絞れるため、歪みが少ないのが特徴です。さらに特殊工程という分類で、品質保証の難易度も高く、参入障壁も高いため、当社が50年近く存続していると言えます」。

社員の人間力向上で、経営の壁の打破を図る

同社は社員教育の観点から、SDGs経営に注目し始めました。上野社長は、社員教育の必要性に行き着いた経緯を次のように語ります。

上野社長「創業から50年近く経ち、技術レベルが向上した一方で、社員の人間力の観点で見れば成長が伴っていない状態でした。売上の面でも、10億から30億円の壁を突破できずにいました。そこで幹部陣から、人間力や組織力を向上することで、この壁を突破しようと提案があり、SDGs経営に取り組むようになったのです」。

上野社長にSDGs経営を提案した幹部陣の一人である高島常務は、当時を次のように振り返ります。

高島常務「当時は優秀な社員が退職していくような事態が続き、会社へのエンゲージメントを高めることが課題でした。幹部陣で話し合った末に社員の人間力を高める必要性に行きつき、まず創業記念日を『教育の日』と定め、終日会社を休みにして全社員で人間力を高める研修をすることにしました。社員教育を通して、自分のためだけに働くのではなく、SDGsの『誰一人取り残さない』で表されるような社会や環境など周辺にも配慮できるようになれば、社員のエンゲージメントも高まるのではないかと考えました」。

年に一度の「教育の日」では、お互いの価値観や自社の文化などを学ぶ

「教育の日」では、毎年ユニークな研修が行われています。例えば、「価値観ババ抜き」と呼ばれるカードゲーム。ババ抜きを模した要領で、ゲームを楽しみながら自分が大切にしている価値観を選び出すゲームです。最後に、自分の選んだ価値観についてグループ内で発表し合うことで、社員どうしの相互理解を促します。

また「教育の日」では創業者の想いに立ち返って自分たちがこれから何をするべきか考え、創業者の想いをつなげていくためにも、今年は50周年に向けて社史を製作できるよう準備を始めたところです。

上野社長「最初、私は社史を製作することに反対でした。創業者である父親が社史を作るために自社の資料を残しているのを見て、『ただの自慢では』と反発していたのです。しかしそれでも、社史を製作する決断をしたのは、ファミリービジネスの永続性を保つためです。創業当時の思いや発展の経緯を振り返らないと、企業の文化が徐々に希薄になっていき、途絶えてしまいます。社史を製作することで、社員が会社の歴史を理解し、組織風土が醸成され、組織の一体感につながります」。

さらに、2045年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル宣言」を掲げたことを契機に、「教育の日」でも脱炭素のワークを実施しました。上野社長は、研修で社員同士が対話を重ねることで、日常での他者との関わり方にもいい変化があると加えます。

上野社長「『教育の日』の一連のワークで社員同士が対話をすることで、組織の心理的安全性が高まります。ワークでは正解を話すのではなく、「あなたが話すことが正解なんだ」という姿勢を大切にします。すると日常業務でも、言い方に配慮できない人や、相手の話を途中で遮ってしまう人が、相手に配慮した会話ができるようになっていくのです。私も以前は傾聴が苦手でしたが、少しはできるようになってきました」。

2045年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロを掲げる「カーボンニュートラル宣言」

同社は2025年4月に「カーボンニュートラル宣言」を発表し、国が掲げている2050年より5年前倒しで、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指しています。事業におけるCO2排出量を測定し、2026年から全社のPDCAシステムに反映し、CO2排出量の管理を行っていく予定です。同社のカーボンニュートラル対策は社内だけで取り組むのではなく、お客様の脱炭素を支援する形でも行われています。同社の電子ビーム溶接が脱炭素に貢献する理由を、高島常務は次のように語ります。

高島常務「ものづくりでは製品を削り出して作るよりも、材料どうしを接合して作る方がエコ(省エネ)になることがあります。なぜなら材料そのものを製造する段階で大量のエネルギーが必要とされ、材料を多く削り出し製品を作るとその削った部分が廃材になってしまいますが、溶接して製造すれば最小限の材料で済み、CO2排出量も抑えられるからです。 また、当社が以前から手がけているレーザークリーニングも脱炭素につながっています。レーザークリーニングは汚れにレーザー光を照射して、表面から汚れを除去する方法です。酸性やアルカリ性の薬液や有機溶剤を使用して洗浄すると環境に悪い物質を排出してしまう場合がありますが、レーザークリーニングならドライクリーニングなので廃棄物の量を最小限にすることができますし、薬液や有機溶剤を使わないので環境への負荷も軽減できます」。

同社は電子ビーム溶接やレーザークリーニングを手がけてきましたが、長らく事業内容と脱炭素が結びついていなかったと言います。上野社長は「外部の支援があったからこそ、事業と脱炭素が結びつき、『カーボンニュートラル宣言』に至ることができました」と振り返ります。

上野社長「事業内容が脱炭素とつながっていることに気がついたのは、東京都中小企業振興公社のハンズオン支援(省エネや脱炭素を目的とした支援)を受けたのがきっかけです。支援を受けたのは知り合いの紹介から始まり、正直なところ、当初は渋々受けていました。しかし、ハンズオン支援の担当者の方が『東成エレクトロビームさんの仕事はすべて、カーボンニュートラルにつながっていますよ』と、気づきを促してくださったのです。支援のおかげで、会社の電力使用量やCO2排出量などのデータを取得でき、当社が国の基準よりもCO2を削減していたことが判明しました。気づきを与え、伴走してくださる方がいたからこそ、『カーボンニュートラル宣言』ができたのだと考えます」。

SDGs経営をスムーズに浸透できた勝因とは

同社がSDGs経営をスムーズに浸透できたのは、あらかじめ幹部陣の中で対話を重ねていたからだと言います。

上野社長「例えば『教育の日』の研修内容一つとっても、まず幹部だけの研修で吟味しました。幹部陣で対話を重ねることで方向性や温度感を合わせたのが良かったのだと思います」。

また、高島常務が幹部陣のマインド向上に貢献したからこそ、現在のSDGs経営が成り立っていると振り返ります。

上野社長「当社は役員への昇格に理系はMOT(技術経営修士)、文系はMBA(経営管理修士号)の取得を条件にしており、高島常務はMOT取得後に、自ら管理職や幹部陣を集めて、勉強会を開いてくれました。おかげで管理職や幹部陣のマインドが向上したのだと思います。それまで私は周りのメンバーに頼れずに『誰も私のことを理解してくれない。孤独だ』と思っていたのですが、高島常務のおかげで管理職や幹部陣のマインドが変わり、私も周りを頼れるようになりました」。

SDGs経営の第一歩は、ご縁づくりから

同社は多摩信用金庫から「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」を受けています。SLLは借り手が野心的なサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)を達成するのを奨励する融資のことで、改善度合いと融資条件が連動しています。同社のSDGs経営が評価され、多摩信用金庫において初めてのSLL案件となりました。上野社長は「ありがたいご提案でした。多摩信用金庫の担当者の方が普段から当社の活動をしっかりと見て、傾聴していただいたからこそ、ご提案してくださったのだと思います」と振り返ります。

最後に、これからSDGs経営に取り組みたい企業に向けて、次のようなメッセージを送ります。

上野社長「まずは代表自身が変わらなければ何も始まらないため、気づきとなる情報を集めたり、相談できる人とつながったりしてはいかがでしょうか。当社もご縁を通じてさまざまな気づきを得てSDGs経営に至っています。ご縁を作ることがポイントだと思います」。

高島常務「難しく考えずに、一歩踏み出してみることが大切だと思います。SDGsはさまざまな切り口があるため、各社でできるところから始めてみるのをおすすめします」。

会社概要

社名:東成エレクトロビーム株式会社

所在地:東京都西多摩郡瑞穂町高根651-6

創業:1977年6月2日

事業内容:電子ビーム溶接やレーザーの受託加工、レーザークリーニング装置の開発・製造

代表取締役社長:上野 邦香

従業員数:61名(グループ会社を除く・2025年1月現在)

ホームページ:https://www.tosei.co.jp/