既存事業の強みを17のゴールで再評価。事業の価値を見直すSDGsの視点(東邦シートフレーム株式会社)

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創業89年、鉄とポリカーボネートの加工技術で社会を支える
東邦シートフレーム株式会社(以下、東邦シートフレーム)は、1937年(昭和12年)に創業し、今年で89年目を迎える鉄鋼の二次加工メーカーです。東京都日本橋に本社を置き、千葉県八千代市の工場で製造を行っています。鉄を購入し、さまざまな形に加工して社会に送り出す事業を展開しており、売上の約65%は、化学製品や石油製品の運搬に欠かせない「200リットル鋼製ドラム缶(以下、鋼製ドラム)」が占めています。
創業当初は鉄板に亜鉛メッキを施す事業からスタートしましたが、その後鋼製ドラムの製造を開始し、現在では鉄板に色を塗ったカラー鋼板や、それを用いた住宅外壁用の金属サイディング、工場や倉庫の床に使われるフラットデッキなども生産しています。
さらに同社を特徴づけるのが、鉄の加工技術を応用して展開している「ポリカーボネート」の加工事業です。ポリカーボネートは非常に割れにくいプラスチック素材であり、同社ではこの素材とガラスを組み合わせた複層窓など、他社には真似できない製品を開発しています。
鈴木康友社長は、同社の技術力について次のように語ります。
「ポリカーボネートを用いた窓は、結露を防ぐ技術などさまざまなノウハウが必要で、JR北海道様と共同で特許を取得し開発しました。雪や氷が飛んできても割れない強靭さがあり、現在、JR北海道様でお使いいただいている電車の窓の多くは、弊社が提供している製品です。こうした製品を手がけられるのは、長年培ってきた弊社の技術力あってこそだと思います」
コロナ禍の経営危機を打破する「選択と集中」。その先に見据えたSDGs経営
長きにわたり日本の産業を支えてきた同社ですが、SDGs経営に舵を切った背景には、深刻な経営危機と業界全体の大きな潮流がありました。2020年4月に同社へ赴任し、同年6月に社長に就任した鈴木社長は、当時の状況を次のように振り返ります。
「私が社長に就任した2020年は、まさに新型コロナウイルスの直撃を受けた時期でした。経済状況が停滞し、私が赴任する数年前から続いていた業績不振が深刻さを増していました。今までと同じことをやっていては大変なことになると危機感を抱き、利益を出せる分野や伸ばせる商品を見極める『選択と集中』の改革を断行しました。採算が合わない遠隔地取引などを見直し、収益性の改善を図ったのです。SDGs経営への取り組みは、そうした経営改革の一環として検討が始まりました」
自社の生き残りを懸けた改革と同時に、鉄鋼業界全体の動きや、主要な顧客層の意識の変化も大きな後押しとなりました。
「鉄鋼業は産業界の中でもCO2排出量が多いため、業界全体でカーボンニュートラルやSDGsへの取り組み機運が高まっていました。また、弊社のお客様の大半を占める化学品メーカーや石油関連企業は、SDGsへの意識が非常に高い企業ばかりです。そうしたお客様から選ばれ続けるメーカーになるためには、SDGsにしっかりと向き合う構えが必要不可欠でした。トップダウンで『これをやらないと企業として生き残れない』と社内に発信し、SDGsに向き合う改革を進めていきました」
既存製品を17のゴールで再評価。メイン商品のドラム缶が循環型経済を体現
いざSDGs経営に取り組むとなった際、同社が行ったのは「自社の既存製品をSDGsの17のゴールに当てはめる」という作業でした。どの製品がどのゴールに貢献しているのかを社内で議論した結果、2023年には「東邦シートフレームSDGs宣言」の取りまとめに至ります。この過程で、同社は自社の主力製品である鋼製ドラムが、極めてSDGsに即した製品であることに改めて気づいたといいます。
「鋼製ドラムは、ほぼ100%リサイクルされる素晴らしいエコシステムを持っています。我々が新しい鋼製ドラムを作り、化学メーカー様や石油メーカー様が中身を詰めて出荷します。使用後は再生缶メーカーに回り、中を洗い、色を塗り直して4〜5回は繰り返し使用(リユース)されます。そして最終的に使えなくなった後は、スクラップとして鉄鋼メーカーに持ち込まれ、溶かされて再び鉄へと生まれ変わる(リサイクル)のです。昔と比較しますと板厚の薄肉化による原材料削減(リデュース)も進んでいます」
以前から当たり前のように行われてきたこの仕組みがSDGsの視点を通すことで、環境負荷の低い循環型製品として、あらためて価値が見直されるようになりました。現在ではドラム缶工業会全体でも、こうした環境優位性を前面に押し出してPRを行っています。
独自のポリカーボネート加工技術で、データセンターの省エネや鉄道の安全に貢献
鉄鋼製品だけでなく、ポリカーボネート製品の分野でも、同社の技術は現代の社会課題解決に直結しています。前述したJR北海道の車両窓への採用は、ガラスからの置き換えによる軽量化を実現し、電車の電力使用量の削減に貢献しています。
また、寒冷地ならではの課題解決にも同社の技術が生かされています。
「雪国では信号機に雪が付着して見えなくなってしまうため、大変危険です。そこで、ポリカーボネートの表面に発熱する電気の膜を張り、付着した雪を自動で溶かす信号機を開発しました。この技術は電車の運転席の窓にも応用されており、安全な運行を支えています」
さらに近年、急速に需要を伸ばしているのがデータセンター向けの用途です。膨大な数のサーバーが稼働するデータセンターでは、熱暴走を防ぐための空調設備に莫大な電力とコストがかかります。
「部屋全体を空調で冷やすのは非常に非効率です。そこで、サーバー本体を囲む中空の軽いポリカーボネートの箱を開発しました。透明なので外から中の状態を確認でき、かつ冷気が逃げないように必要な部分だけをピンポイントで冷やすことができるため、冷房効率の向上により、電力消費とCO2排出の削減に貢献しています。これもまさに環境に優しい製品の一つとして、大きく売上を伸ばしています」
社員への還元と風通しの良い組織づくり。人的資本への投資が採用難の打破へ
SDGsの目標の一つである「働きがいも経済成長も」を実現するため、同社は人的資本経営にも注力しています。社員一人ひとりの能力向上のため、外部機関を活用した生成AI研修、コンプライアンス研修、アンガーマネジメント研修などを定期的に実施。また、男性の育児休業取得率も100%を達成するなど、多様な働き方への対応を進めています。
社内の風通しを良くするための取り組みもユニークです。
「工場がいくつも分かれているため、普段は別の部署の人間と顔を合わせる機会がありません。そこで、会社の近くのボウリング場を30レーンほど貸し切りにして、全社ボウリング大会を開催しています。あえて部署が異なるメンバーでチームを組み、終了後はホテルで表彰式を兼ねた宴会を行って社員の交流を図っています。業績が好転した利益を、社員の意見を取り入れた景品という形で還元することも大切にしています」
こうしたクリーンで働きやすい労働環境の整備は、中小企業にとって最も高い壁の一つである採用活動にも良い影響をもたらしています。同社では採用活動において、知名度不足という課題を抱えていましたが、大学へ直接出向いてアプローチを行うなど地道な活動を継続しました。満員電車に揺られて都心へ通勤するのではなく、地元でワークライフバランスを保ちながら、残業代も適切に支払われるクリーンな環境で働けるという同社の魅力を学生に誠実に伝えていきました。
また、獲得競争が激しい工業高校生の採用についても、近隣の高校にインターンシップの実施を積極的に呼びかけた結果、着実に採用実績に結びついているといいます。
「社長である私が現場に足を運び、工場の人たちと直接対話する現場主義を貫くことで、会社全体が良い方向に向かっていると感じています。学生の皆さんも、企業のSDGsへの姿勢を評価して会社を選んでいますので、採用活動においてもSDGs経営はプラスに働いていると実感しています」
外部機関の支援を積極的に活用し、まずは「自社の現在地」を知ることから
同社は、自社の取り組みを進める上で、東京都や各種外部機関の支援制度を有効に活用しています。商工中金によるポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)を通じて自社の取り組みを客観的な指標で評価し、その過程で認識した女性活躍などの課題の改善につなげています。また、東京都中小企業振興公社の手厚い無料支援を受けてBCP(事業継続計画)を策定したほか、東京都の展示会出展補助金を活用して「鉄道技術展」等に出展し、ポリカーボネート事業の新たなビジネスチャンスを獲得しています。
最後に、鈴木社長はこれからSDGs経営に取り組む企業に向けてメッセージを語ってくれました。
「SDGsを難しいものと考えず、まずは自分たちでできる身近なところから始めてみてください。現在扱っている製品やサービスをSDGsの17のゴールに当てはめて考えてみるだけで、自社の強みや弱みが必ず明らかになりますし、社内の会話も弾むはずです。私自身、この作業を通じて『自分たちがやってきた事業は、実はこんなに社会にとって良いものだったのか』と再認識できました。
そして、中小企業が自力だけで全てを行うのは困難ですから、東京都さんや公社さんなど、外部の支援を積極的に活用することをおすすめします。自社の事業を見つめ直すきっかけとして、まずは第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか」
会社概要
社名:東邦シートフレーム株式会社
所在地:東京都中央区日本橋3-12-2
創業:1937年(昭和12年)3月30日
事業内容:鉄鋼二次加工製品(鋼製ドラム、建材製品など)およびポリカーボネート製品の製造・販売
代表取締役社長:鈴木康友
従業員数:168名
ホームページ:https://www.toho-sf.co.jp/
