「とりあえずやってみる」と可能性が見えてくる
(株式会社ハイメックス)

株式会社ハイメックス 代表取締役 中島 俊英様

国内外の企業がハイメックスの高技術製品に注目

株式会社ハイメックス(以下、ハイメックス)は、東久留米市に本社を構える1990年創業の企業で、コンバーティング装置の機械要素(カプセルチャック)をつくるメーカーです。コンバーティング装置とは、ロール状に巻かれた紙やフィルム、箔などを片方で巻き出し、もう片方で巻き取る間の工程で、印刷・コーティング・ラミネートなどを行う装置を指します。同社が部品を提供しているコンバーティング装置は、プラスチックフィルムへのコーティングやラミネートを主としており、例えばレトルト食品やポテトチップスの包装材料、ディスプレイやリチウムイオン電池の内部に用いられる高機能性フィルムなどがそれに該当します。

現在、代表取締役を務める二代目の中島社長いわく、先代は「従来品に比べた際の精密さ、軽さ、寿命の長さ」を売りに市場進出をしていた。ところが2000年頃から液晶テレビなどのディスプレイ業界が業績を伸ばしたことで、発塵性が低くクリーンルーム環境下に適した同社製のカプセルチャックに、国内外から注目が集まり、業績アップにつながった。社名の「ハイメックス」は「ハイグレード」な「メカトロニクス」を目標とすることに由来しており、同社製のカプセルチャックは社名を具現化した製品そのものだといえそうです。

ハイメックスが誇るカプセルチャックの技術力

きっかけは「自然が好き」という思いとPIF

ハイメックスがSDGsに取り組んだきっかけについて、中島社長は次のように話します。「私自身、山や自然が好きということが大前提にあり、地球温暖化といった環境問題にも関心がありました。会社としても地球のために何かできるといいなという思いを漠然と持っていたところに、金融機関から『ポジティブ・インパクト・ファイナンス(以下、PIF)』のお話をいただいたのが最初のきっかけです。ただ、その時点では私もPIFについて、全く知識がありませんでした」。

PIFを直訳すると「良い影響を及ぼす資金調達」となります。具体的には、事業活動を通じて経済・社会・環境に対してプラスの影響があるものを増大させ、マイナスの影響があるものを管理・低減することを目標とする企業に対して行う融資のことです。

「本当は、PIFで地球環境を意識したサステナブルな経営に向けた取り組みを実践したかったのですが、『良い影響』は必ずしも環境に関することだけではないとわかり、PIFを受けるにあたり、当社の何を評価いただけるのかを洗い出すことから始めました」と中島社長。

「とりあえずやってみる」の精神で見えた可能性

ハイメックスは社員数が40名ほどですが、社内には多くの単純作業が潜んでおり、これら単純作業を正社員が何となく対応してくれています。また、昨今注目されている自動化は、作業規模的に難しいのが実状です。そしてまた、同社のある多摩地域はそもそもの人手が足りないこともあり、募集をかけても人が集まらず、これには中島社長も悩んでいたといいます。そんな折、普段から付き合いのある東久留米市商工会より、障害があって短時間しか働けない若者を雇用できないかとの相談があり、中島社長は「とりあえずやってみる」の精神で受け入れることにしました。

その当時、同社では、車載用のリチウムイオン電池向けに製造していたカプセルチャックのバリ(出っ張りやトゲ)を取る作業を、60代後半のシニアの方が1人で担っていました。すでにキャパオーバー気味だったため、生産が追い付かない状況になると、週末に社員が交代で出社し、バリ取り作業をしたこともあるそうです。中島社長はその当時を振り返りこう話します。

「障害のある方にバリ取り作業をお願いしたところ、とてもうまくいったんです。ある人に『これは皆が幸せになる働き方改革だ』と言われ、確かにそうだと思いました。その後まもなくして世の中がコロナになると、今度は対面の仕事をされていた方の仕事がなくなってしまい困っていると聞き、それなら間口を広げようという考えになったんです。当社の作業工程から切り出した作業を、障がい者に限らず、子育て中で数時間だけ働きたい方、高齢で長時間は無理でも短時間なら働きたい方にもお願いすることで、さらに生産体制が安定化しました。」

多様な働き手による内職の創出

同社は、この多様な働き方を望む多様な人材と、人手不足に悩む製造業をマッチングさせてお互いが助け合える社会の仕組みを『令和の内職』と名付け、東京都産業労働局の『多摩イノベーションエコシステム促進事業』に応募し、見事に採択されています。

「いずれは、地域にある空き家をバリアフリーかつ少しおしゃれにリノベーションし、当社のみならず、多摩地域の中小製造業のための『令和の内職』の専用スペースにしたい考えです。障がいのある人や子育て中の女性たちが集まりやすい場所にすることで、空き家問題を解消しつつ、工業を盛り上げ、さらにはその場所が地域のコミュニティ的存在になることが『令和の内職』の最終イメージです」と中島社長は笑顔で話してくださいました。

事業承継に向けた努力もSDGsに該当する

『令和の内職』が『多摩イノベーションエコシステム促進事業』に採択された翌年、同社は同じ東久留米市内で工業を営む事業主らと連携し、製品開発や販路開拓に臨む事業でも採択されています。

中島社長は「グローバル化に伴い、日本の中小製造業が担っていた仕事が、海外に持っていかれてしまい、廃業に追い込まれたという話はよく聞く話です。私としては、そこを何とかしたいという思いでM&Aによる事業承継にもチャレンジ中ですが、事業承継がSDGsに該当するかどうかは微妙かもしれませんね」と苦笑します。しかし、事業承継の問題はSDGsの17の目標すべてに関わっているといっても過言ではありません。例えば、8つ目の「働きがいも経済成長も」に関連付けて考えれば、事業が承継されることで、雇用が創出され、税収が増え、地域のインフラも整い、働きがいや経済成長につながっていることがわかります。 他にも、ハイメックスでは、武蔵村山市にある工場に太陽光パネルを導入したり、屋根を断熱塗装することでエアコンの節電に努めるなど、地道な努力も重ねています。

「みんなで」がSDGsに取り組む上でのポイント

本来の事業で実績を積み上げながらSDGsにも取り組んでいる中島社長に、苦労した点や課題、またその解決のポイントについて尋ねました。

「当社の場合、SDGsを意識して始めたわけではないので、結果的に会社全体の総意がないままに、私の思いだけで推し進めた感じになってしまいました。その結果、『社長が何か1人でやってるよね』という雰囲気になってしまい、アウェー感がありました笑。そんな中で、理解を示し、協力してくださったのが外部コンサルタントの先生と姉です。特にコンサルタントの先生とは10年以上のお付き合いで、SDGs以外のことでも色々とアドバイスをいただいてきた経緯があります。当社のことをご理解いただいているからこそのご意見やご助言をいただける点が、とても心強いです。時と場合と内容にもよりますが、私が社員に自分の思いや考えを伝えるよりも、コンサルの先生に旗振り役を担っていただくほうが社員に響くこともあるので、SDGsに関しても、コンサルの先生のお力を借りながら推進していきたいと考えています」

「共生」を軸に明確なビジョンを描くことが大切

中島社長は、SDGsに取り組む上で、行政の補助金等もうまく活用しています。情報収集のポイントや採択されるコツについてもお聞きしました。

「必要な情報をキャッチできるのは、これまでにご縁のあった方々のおかげかもしれません。障がいのある方の雇用の相談があった際もそうでしたが、私は何かお願いごとをされたときに、基本的には前向きに受け入れるタイプなんです。そういうスタンスでいるからなのか、行政や公的団体の方々が何かとご連絡をくださり、当社にとって有益な情報やアドバイスをくださいます。また、採択のコツについてですが、抽象的な表現になりますが、まずは夢を持つことだと私は思います。補助金の申請に必要な書類への記入や事業計画書の作成は、自分の夢をどうすれば実現できるのかを整理するのには非常に有効です。これをすることによって自分のビジョンが明確になる上、課題も見えてきます。なので、仮に申請が通らなくても、私はそこまで悲観も落胆もしません」

最後に、今後の抱負と、これからSDGsに取り組む事業所に向けたメッセージをいただきました。

「日本の工業を元気にしたいことを大前提として、当社の技術で農業にも貢献したいと思っています。少し前に、東京都立産業技術研究センターさんと共同で産業支援ロボットの開発をしました。近い将来、この『産業支援』のロボットをベースにした『農業支援』のロボットを開発し、担い手不足で衰退しつつある日本の農業をもう一度元気にするお手伝いをしたい考えです。SDGsに関しては、当社の取り組みもまだ道半ばなので大きなことはいえませんが、キーワードは『共生』ではないでしょうか。企業の価値というものは、その企業がどれだけ一人勝ちするかではなく、その企業が社会にどれだけ貢献できるかだと思っているので、私自身、これからも協働や共生を大事にしながら、事業にもSDGsにも取り組んでいきたいです」

開発した産業支援ロボット
ハイメックスが創造する共生ビジョン

会社概要

社名: 株式会社ハイメックス

所在地: 東京都東久留米市八幡町1-3-34

創業: 1990年

事業内容: コンバーティング装置に用いられるエアカプセル、ハイロック、エアフレックス、オプスロック、ウィングシャフト等の巻取・巻出関連製品や、大型原反から小型原反などのマテハン機器「マテハン小道具」の製造

代表理事: 中島俊英

従業員数: 41名(2024年4月現在)

ホームページ: http://www.himecs.com/