「ベビーを守りたい」気持ちが自然とSDGsの取り組みに(日本エイテックス株式会社)

ベビー用品メーカーとして数々の賞を受賞
日本エイテックス株式会社(以下、日本エイテックス)は、抱っこひもをはじめとするベビー用品の開発および製造販売、輸入販売を主軸に行う会社で、現在、世代や用途に応じた5つのブランドを展開しています。近年は、ベビー用品の製造にまつわるノウハウを生かし、災害用抱っこひもなどの防災用品に加え、ペット用品、トラベル用品の開発や製造販売も手がけています。
これらの商品は、子どもの安全や安心、子どもを産み育てやすい社会づくりに貢献するデザインとして高く評価され、これまでにグッドデザイン賞を4回、キッズデザイン賞を32回受賞しています。
もともとは1962年に自転車部品加工業として創業した同社ですが、1979年から自転車に関連した育児用品の輸入を開始した際、抱っこひもを扱ったことがベビー用品メーカーとして歩むきっかけとなりました。 八木澤祐一社長は当時について次のように語ります。
「70年代はまだ日本に抱っこひもはなく、ベビーをおんぶしながら家事をするための“おんぶひも”が一般的でした。しかし、アメリカではベビーを体の前に抱いて外出するアイテムとして抱っこひもが使われていたのです。発想がまったく違うので、初めはなかなか日本に浸透しなかったそうですが、日本人の体形に合うようにカスタマイズし、メディアでも有名人が抱っこひもをしている姿が紹介されたことなどもあり、次第に定着していったそうです」


キッズデザイン賞を受賞した抱っこひも
すべての「あなた」にとって安全で安心なものづくりをするために
日本エイテックスでは、自社で手がける製品の安全・安心を担保するため、1983年に製造工場においてSG基準(※1)の認定を受けています。特にベビー用品は、数ある製品の中でも厳しい安全基準が設けられており、検査項目は部品の強度や安全な素材の利用など多岐にわたります。
さらに同社では、2023年にQTEC認証検品工場(※2)の認定を受けました。
八木澤社長は「ベビー用品メーカーで、工場自体がSG基準とQTEC認証の両方を受けているのはおそらく弊社だけではないかと思います」と説明します。 各種の認定を受け、資格を維持し続けるには手間もコストもかかるそうですが、それを押しても安全や安心にこだわるのは、同社が「あなたを想うものづくり。」という企業理念を大切にしているからです。
「この『あなた』には、ママやパパ、飼い主や介護者などいろいろな人が当てはまります。私たちは、すべての『あなた』に寄り添ったものづくりをしていきたいと考えています。そのためにも、安全・安心が担保されたものづくりをすることは必要不可欠なのです」
そして、この「あなた」に「地球」も含まれるとの考え方をもとに実施しているのが、同社のSDGsへの取り組みです。
(※1)SG基準:(一財)製品安全協会が製品の実際の使われ方を踏まえて安全要件を規定するもので、安全基準・製品認証・自己賠償が一体となった世界的にも珍しい制度
(※2)QTEC認証検品工場:(一財)日本繊維製品品質技術センターが検品工場の検品技術を評価し、高い技術レベルに達していると判断した場合にこれを証明し、認証するもの
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ベビーを思う母親の言葉がSDGsに取り組むきっかけ
日本エイテックスでは、工場で排出されるCO2の削減を目指し、すべての照明をLED照明に切り替え、省エネエアコンや断熱効果の高い窓ガラスフィルムを導入したほか、昼食時に1時間、消灯も含め工場の稼働を停止し、実質稼働時間を抑制する取り組みを実施しています。
また、リサイクル素材のパッケージや、環境に配慮されたFSC認証のダンボールへの切り替え、生地や糸などの素材をエコ素材にシフトするなどの取り組みも進めています。
さらに、より働きやすい職場環境を目指し、休暇制度を全社員で設定することにしました。その中でバースデイ休暇などを導入したことにより、職場が徐々に有給休暇を取りやすい雰囲気に変化し、仕事の効率やモチベーションが高まるといった効果もあったそうです。 八木澤社長は、こうした取り組みを始めた経緯を次のように振り返ります。
「5年ほど前に、ある社員が会議の中で、子育て中の友人が『子どもの将来を考えると、この先の地球環境が心配だ』と、不安をこぼしていたと言ったのです。それまで私は、SDGsについてあまり強く意識していませんでしたが、ベビー用品を扱う会社として『ベビーを守りたい』『ベビーにとっていい社会にしていきたい』との思いは持っていました。そこで、“地球を想うものづくり。”の視点で、少しずつSDGsに取り組んでみようと考えたのです。ですから、世間でSDGsが広がってきたことを機に取り組みを始めたのではなく、一人の母親の、ベビーを思うふとした言葉がきっかけとなったのです」。

SDGsに取り組む上での、初めの一歩とその先の課題
今でこそSDGsへの取り組みが日常的となっている同社ですが、「初めは何をしていいか分かりませんでした」と八木澤社長は明かします。 そこで八木澤社長は、まず自ら「eco検定」(東京商工会議所主催)を受けることにしました。
「これが最初の一歩として最適かは分かりませんでしたが、私自身、eco検定を受けることで勉強になりますし、社員にとっても、社長が取り組むことでエコに興味を持つきっかけになればとの思いがありました」と八木澤社長。
また、会社全体でSDGsへの意識を共有できるよう、個人面談の場でなるべくエコに関する話題を出すようにしたそうです。そのねらいについて、八木澤社長は次のように語ります。
「これは人数の少ない会社だからこそできることですが、一斉メールなどでエコについて説明をしたり協力を仰いだりするより、1人ずつ直接『エコな素材を探してほしい』などと話した方が響くと考えました。もちろん、すぐには浸透しませんでしたが、弊社は企業活動の根底にベビーを思う気持ちがあるので、他業種に比べ社員の理解は得やすかったと思います」。
一方で、SDGsの取り組みを進めるにつれ課題も見えてきました。
「弊社は製造業ですから商品を売らなければなりませんが、エコな素材を取り入れれば取り入れるほど、販売価格が高くなってしまうというギャップが生じてしまいます。見た目は同じなのに、エコ製品であるがために新品よりも高価な商品を、果たしてお客様が買ってくださるでしょうか。これは以前からなかなか解決策が見えない課題で、おそらく製造業の多くが頭を悩ませていることであり、SDGsの達成を妨げかねない要因の一つだと思います。SDGsに取り組む製造業を増やすためにも、国の方でエコ製品にもっと補助金を出すとか、新品を高く設定するなどの方策を検討していただけたらと思います」(八木澤社長)。

自由に発言できる雰囲気が前向きな気持ちにつながる
最後に、これからSDGsに取り組む企業に向けてメッセージをいただきました。
「弊社は大きな会社ではないので、本当に小さなことから少しずつ取り組んでいる状況です。また、何が正解かも分からないので失敗もしてきました。例えば、製品のリユースやリサイクルを試みましたが、やはり生地や部品が劣化するため、安全面の観点から断念しました。しかし、失敗もよい経験になるので、まずは肩肘を張らず、何か1つでもいいので取り組んでみるとよいのではないでしょうか。どこの企業様でも、何かしらできることはあると思います。そして取り組む際に必要なのは、先頭に立って進める人の存在と、『どうせやっても変わらない』という考え方をしないことだと思います。『どうせ…』という言葉には、逃げや言い訳のようなものを感じます。とりあえず取り組んでみれば何かいいことがあるかもしれませんし、うまくいかなかったとしても、挑戦した分だけ成長はすると思います。そして成長した分だけ目線が変わるので、いろいろなところにエコやSDGsがあることにも気付けると思うのです。また、これは弊社の目標でもありますが、何事も1人ではできないので、社員全員で取り組みを続けられる環境づくりも大切だと思います。そのために私が心がけているのは、日頃からトップダウンにならないよう、会議の時などもなるべく自分からは話さず、社員が自由に発言できる雰囲気をつくることです。それが、仕事においてもSDGsの取り組みにおいても、一人一人の前向きな気持ちにつながると考えています」。

会社概要
社名:日本エイテックス株式会社
所在地:東京都文京区千駄木4丁目11番10号
創業:1962年
事業内容:育児用品・日用家庭用品・玩具・スポーツ用品などの輸入及び製造販売
代表取締役:八木澤祐一
従業員数:社員12名 パートアルバイト15名(2024年11月19日現在) ホームページ:https://www.eightex.co.jp/