「制度ではなく風土」をつくりSDGsに取り組む
(日本ノハム協会)

日本ノハム協会 代表理事
株式会社タガヤ 代表取締役 神田 尚子様

コロナ禍で仕事が激減したからこそ社会課題に目が向いた

一般社団法人日本ノハム協会(以下、日本ノハム協会)は、2020年2月19日に、中小零細企業を対象に、SDGsのコンサルティングや定期診断サービスを提供する組織として設立されました。2020年2月といえば、日本では各種メディアが、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」における新型コロナウイルス(以下、コロナ)の集団感染を報じていた時期です。つまり、個人はもとより企業も政府も先の読めない未知のウイルスに戦々恐々とする中で、日本ノハム協会は誕生したことになります。

同協会の設立には、ウェディング事業を展開する株式会社タガヤ(以下、タガヤ)の存在が欠かせません。タガヤは、1974年に、婚礼貸衣装業として京都で創業しました。現在、同社の代表取締役で、日本ノハム協会の代表理事でもある神田尚子氏が1988年に同社に参入してからは、衣装事業に加え、チャペル運営や挙式の総合プロデュース、フォトスタジオやレストランの運営も手掛けるようになり、事業拡大と共に業績も飛躍的に伸びたといいます。

タガヤではコロナ前の2019年から「紙ストロー採用」や「MyボトルMyバッグMy傘運動」で脱プラスチックを推進したり、「ペレットストーブ導入」でCO2削減に取り組むなど、SDGsの達成につながる活動を実施してきました。そんな中で、神田氏は、取引のある銀行から紹介されたSDGs債の購入を決め、大手によるSDGsのコンサルティングも受けることにしたのです。その当時を振り返り、神田氏は次のように話します。

「当社としては思い切った支出でしたが、2024年の50周年に向けて、社をあげてSDGsに本気で取り組んでみようと思ったのです。ところが、経営陣の中には『最優先すべきは経済成長』という考えの人たちも多く、社内でのSDGsに対する意識を社内で醸成しきれませんでした。そこで、SDGsにより関心の高い若い世代に声をかけ、任意でSDGs推進チームをつくり、トップダウンではなくボトムアップでSDGsに取り組むことにしたのです。誰にも何にも忖度せず、自由に発言することを尊重した結果、とても良い提案がたくさん出てくるようになりました。そうこうしているうちに、コロナの影響でウェディング事業が一気にストップし、仕事がない状態となり、売上的にも創業以来初の赤字になってしまいました。それで『こんなときだからこそ、社会課題を解決するような商品を考え、事業化しよう』という方向に舵を切りました。各事業部からさまざまな提案が寄せられる中で、小さな子どもを持つ若い親世代の社員から『野菜の中でも、特にピーマン、ニンジン、シイタケを食べない子どもが多い』という課題が出てきたのです。この課題をSDGs的に解決しながら事業化しようということで、日本ノハム協会を立ち上げ、まずは自らの会社をコンサルティングすることから始めました」

「みんなが幸せ」を軸に据えた事業は成功する

同協会の名称にある「ノハム」とは英語の「no harm」(害が一切ない)に由来しています。主たる事業がウェディング事業のタガヤには、シェフもパティシエもそろっていることから、野菜を練りこんだクッキーを開発することにしました。SDGsの視点を取り入れた結果、CO2を最小限にするために、仕入れ先となる野菜農家は同社の工場に近い農家に限定し、なおかつ環境にも人にもやさしい無農薬野菜にこだわり、さらにはサステナブルな農業に貢献するべく規格外で売れない端野菜を有償で譲り受けることに。こうして、保存料不使用で安全・安心のクッキーの詰め合わせ「ベジボックス」が完成したのです。

「コロナで子どもたちが外で遊べない時期だったため、完成した野菜クッキーに塗り絵を付けて、地域の児童養護施設や保育園にお持ちしたところ、新聞社がすぐに取り上げてくださいました。その時に『今までは新商品の周知にはお金を払って広告を打っていたのに、SDGsの視点を取り入れ、みんながハッピーになる商品にしたら、無料で記事にしてくれるんだ』ということに気付いたんです。しかも、このクッキーが月に約1,000万円も売れるようになり、環境や健康に意識の高い消費者が増えていることを実感しました」と神田氏は笑顔を見せます。

そこで、次に、2020年8月に開催予定だった東京オリパラを視野に入れ、サステナブルにこだわったレストラン「Noeud. TOKYO(ヌー・トーキョー)」を東京の永田町に出店しました。世界の食がそろっているとされる東京でも、ベジタリアンとそうでない人が共に食事を楽しめる場所は当時かなり少なかったといいます。サステナブルを重視し、店舗内装には間伐材を取り入れ、メニューはQRコードでペーパーレスに、ジビエや魚など旬な食材を仕入れ、野菜は根も葉も余すところなく使用するなど食材ロスの削減を目指した結果、オープン時には27社から取材が殺到したそうです。そして、1度も広告を出すことなく、同レストランはオープンから1年を待たずにミシュランガイド東京2022、2023で一つ星を獲得し、さらにはグリーンスター(優れた料理に加え、食におけるサステナブルな取り組みをしている店に与えられる称号)まで獲得し、今では予約必須の人気店となっています。

レストラン「Noeud. TOKYO(ヌー・トーキョー)」

「会社の利益」は「社会の利益」の後から付いてくる

企業としてSDGsに本格的に取り組もうとすると、真っ先に直面するのが経費の問題です。コロナの影響で業績に伸び悩んだ企業であれば、SDGsへの取り組みに躊躇するのは当然のことかもしれません。しかし、神田氏は次のように話します。

「組織も個人も、できることから始めればいいんです。タガヤでも、SDGsに取り組み始めた当初、壊れやすく捨てられやすいビニール傘の使用を禁止し、代わりに軽量の折り畳み傘を全社員に配布しました。たったこれだけのことでも、全社員でSDGsに取り組んでいることになります。大切なことは、まず経営者がアクションを起こすことです。もちろん、企業である以上は利益を出す必要があります。ただ、既存事業でも新規事業でも利益至上主義で考えるのではなく、SDGsを中心に考えることが、事業を成功させる秘訣だと私は思います。これも当社の事例になりますが、ブライダル関連の施設はオープン初日に最も価値があり、あとは経年劣化で価値も人気も下がっていくのが通常です。そこで当社は、最初からアンティークで勝負しようと思いました。例えば当社が運営するチャペルのステンドグラスは英国より譲り受けた300年の歴史を紡ぐものです。実際、このステンドグラスに魅力を感じ、契約してくださるお客様がたくさんいらっしゃいます」

京都セントアンドリュース教会のステンドグラス

知恵と工夫でSDGsに取り組んでいる神田氏に、SDGsを推進していく上で重要となるポイントについて尋ねました。

「やはり経営者が『全社をあげてSDGsに取り組む』という明確な意思表示をトップダウンで行うことです。具体策を考えたり、実践していくのはボトムアップで良いのですが、やはり会社の方向性を打ち出すのはトップの役目です。制度ではなく風土をつくることが重要です。また、日本企業においては男性役員の割合が多いという実情がありますが、SDGsの推進には女性を含む多様な人材の意見が重要になりますので、そこも大切にしていただきたいですね。そして、SDGsに取り組みながら事業で利益を出せるようになるには、一定の時間を要しますから根気強さも必要です。すぐに利益が出ないからと言って投げ出してしまうのではなく、『会社の利益にはなっていなくても、社会の利益にはなっている(社会価値を創造している)』という考え方で取り組んでいただければ、事業価値は後から必ず付いてくると思います」

最後に、これからSDGsに取り組もうとしている企業に向けて、神田氏からメッセージをいただきました。

「日本ノハム協会としては、当社(タガヤ)がSDGsに取り組む際に苦労したことを生かしたいという思いがあります。その最たるものが、最初の1歩を踏み出す上で必要だったコンサルティングにかかる費用です。中小零細企業にとって、この費用を抑えられるだけでも、ずいぶんとSDGsに取り組みやすくなると思い、当協会におけるSDGs経営支援やSDGs研修などはリーズナブルな価格設定にしています。ご提案させていただく内容も、各企業様の理念や事業、体制に合わせており、これまでに200社以上の企業様のお手伝いをさせていただきました。当協会のウェブサイトでは、各企業様の声やSDGs業務に役立つ資料などもご覧いただけますので、ぜひ一度、チェックしていただけるとうれしく思います!」

会社概要

社名:一般社団法人 日本ノハム協会
所在地:[東京本部]
東京都新宿区新宿6-29-3 新宿桑原ビル 2F
[関西本部]
京都市中京区西ノ京上合町57(西大路太子道東北角)
創業:2020年
事業内容:サステナビリティ・SDGsを専門としたコンサルティング
代表理事: 神田尚子
従業員数:10名(2023年12月15日現在)
ホームページ: https://noharm.or.jp/